桃夭学園どきどき日誌


第8話

 ――この女の子を信じてみよう。

 あなたは視線を秋月理々子に移動させた。
 彼女はあなたと目が合うと、しばらくためらっていたが……。

「あなた」

 秋月さんは少女に声をかけた。ぐすぐすと泣いていた女の子がこくんと頷き、
応じる。

「この子を……もう二度と捨てたりしませんか?」

「はい……」

 目を真っ赤に腫らしながらも、少女は秋月さんにコクリと頷いた。

「大切にすると約束出来ますか?」

「できます!」

 その彼女の顔に、あなたとそれから恐らく秋月さんも、断固たる決意を見て
取った。

「……」

 秋月さんはあなたに顔を向けて、ゆっくりと頷いた。
 あなたはこももを少女に差し出す。

「こももっ、こももーっ!」

 にゃんっ!

 少女はあなたたちが付けた名を呼びながら、こももをひしと抱きしめる。

 秋月さんは温かい笑みを浮かべて二人を見つめていたが、あなたの視線に
気付くと咳払いしつつ顔を背けた。

「……うむ」

 五味淵さんが重々しく頷いていた。こももと、少女の満面の笑顔を見ている内に、
あなたは自分の選択が間違っていないと、そう確信できた。



 あなたたちは校門まで彼女を見送ることにした。

「その……お世話になりました」

 少女がぺこりと頭を下げる。どうやら五味淵さんが彼女を家に送り届けて
くれるようだ。

「構いません。それより……」

「?」

「こもものこと、よろしくお願いします。約束ですからね?」

「うん! ……じゃなくて、はい! お姉さんとの約束!」

 少女は勢いよく頭を下げた。

 お姉さんと呼ばれた秋月さんは、照れくさそうに頬を掻いた。

「何か分からないことがあれば私や……この五味淵さんに相談するとよいです」

「はい!」

「…………」

 五味淵さんも心得たとばかりに頷く。

「ありがとうございます!」

 少女はまたもや深々と頭を下げた。

「……それじゃあ、さようなら」

「はい!」

 少女が元気よく手を振りながら歩き出す。

 そして、

 にゃあ……。

 こもももまた、こちらに手を振って一声啼いた。
 別れを惜しむような鳴き声に、あなたの胸が詰まる。

「……ぐすっ」

 彼女の名誉のため、あなたは決して秋月さんの方を向くことはなかった。

 数日後。
 あなたと秋月さんの元に、手紙が届いた。
 中にはこももが元気で暮らしていることと、それを証明する写真が二枚、
同封されていた。

「……元気そうで、よかった」

 あなたは二枚の写真を公平に秋月さんと分け合うことにした。



 さて。
 あなたは子猫を救い、少女を救い、秋月理々子の素顔を少しだけ知ることが
できた。

 あなたのとった行動は、ひょっとするとこの学園の男子軽重の風潮を、わずかながら変えられたかもしれない。

 あなたの物語はここで一度幕を閉じる。
 だが、決してこれで終わった訳ではない。





 次の『あなた』の物語は、既に『あなたがた』を待っているのだから。




─つづく─



戻る