桃夭学園どきどき日誌


第4話

 当然、あなたは男子寮に帰ることにした。
 何しろあなたは『男子生徒』なのだから。

 秋月さんにおやすみなさいと挨拶し、あなたは男子寮に向かった。

 五味淵さんの両腕に抱えられた『こもも』が、あなたたちと別れる気配を察してか寂しそうににゃあごと鳴いた。

 戻って抱きしめてやりたくなるのを堪えて、あなたは小走りに歩を進めた。

 ……背後で同じように足早に遠ざかる音が聞こえたが、秋月さんも同じ気持ちだったのかもしれない。



「狭いながらも楽しい我が家」
「座って半畳、寝て一畳。人間それで生きられる」
「貧しきことは美しき哉」

 そんなフレーズばかりが目に浮かぶ、私立桃夭学園男子寮の前にあなたは立っている。

 食欲をそそるスパイシーな香りが漂ってきた。
 どうやら今日はカレーらしい。

「お、遅かったな。今日の夕食は定番にして王道『かーさんのカレー』だぞ、手ぇ洗って食堂に集合だ」

 クラスメイトの言葉に、あなたは心浮き立たせながら、食堂へと向かった。

「はい、それじゃ……いただきまーす!」

 かーさんの言葉に手を合わせて軽く一礼。

 久世薫ことかーさんの特製カレーは、安価な鶏の胸肉を叩いて作ったチキンボールが実に柔らかく煮込まれた、寮生に人気の一品だ。

 猫の里親捜しに奔走しすっかり腹を空かせていたあなたは、たちまちカレーを平らげる。

 空腹は未だ収まらず、あなたはおかわりをしようと腰を上げるが、一足早く椅子を高く鳴らして立ち上がる者がいた。

「お代わり一番乗りぃっ!」
「こら、鷹斗! みんな食事してるのに走らない!」

 宇佐見鷹斗は、かーさんが叱るのもどこ吹く風、既におひつと鍋の前に陣取って、二杯目を皿によそっていた。

「よし、俺もお代わりすっか!」
「あ、俺も俺も」
「ついでに俺もー!」
「……」

「あーもう、みんな一斉に押し寄せない! 並んで並んで! 順番を守りなさい!」

 あれよあれよという間に、先輩後輩同級生たちがおかわりを求めて列を成してしまった。

 遅ればせながら、あなたもその最後尾に並んではみたが……。

「ただいまをもって、本日の『かーさんのカレー』は品切れとなりましたー!」

 無情な男子生徒のアナウンスが響き渡る。

 なんと、あなたの順番を目前にしてカレーは品切れとなった。

「ごめんな、今度はもうちょっと多めに作っておくから」

 申し訳なさそうなかーさんに恐縮する。
 彼が悪い訳ではもちろんないのだ。

 カレーの残り香に、六分程度に膨れたお腹を刺激されながら、あなたは部屋に戻ることにした。



 消灯後。
 あなたは眠れぬ夜を過ごしていた。

1.お腹、空いたなあ

2.こもも、どうしてるかなあ

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